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ハイプリエステス

 今日は夢の話です。
 今年はなかなか良いペースで妙な夢を見ています。
 なにぶん夢なのでオチまで見れないことも多いのですが、設定が好みの夢を見ると、たとえ悲劇でも(むしろ悲劇の方が)目覚めたあと機嫌が良いです。

     ※※※

 こんな夢を見た。

 細い石畳の道。道の両側は人の背丈ほどの石垣。そこを馬車がゆっくりと進んでいる。
 二頭立てのオープンタイプの馬車。馬車に乗るのは青地に銀糸の刺繍の上着を白い長衣の上に着た、金髪碧眼の女。御者はおらず、代わりに馬車を操るのは白い鎧を着けた銀髪赤眼の女。
 二人は教皇と騎士。
 美しい馬具を着けた純白の馬は御者など必要無いかのように決まった道筋を正確に歩む。
 男のように短く髪を刈り込んだ騎士は時折そっと教皇の姿をうかがう。そのたびに教皇は微笑む。聖母の慈愛にそこはかとない妖艶さを含めたような微笑。豊かに波打つ長い金髪が日の光そのもののように輝く。
 騎士は先ほどから迷っている。あることを教皇に告げるべきか否か。それを聞いたら、誰よりも敬虔なこの教皇は一体どんな顔をするだろう。
 言わない方が良いことなのかもしれない。誰よりも慈悲深い教皇を傷付け悲しませるよりは、最期の時まで秘密を通した方が良いのかもしれない。だが秘密を通すことは教皇を裏切ることのような気がする。神を裏切るよりは良いと教皇は言うかもしれないが。
 とうとう騎士は決心をして口を開く。
 黙ってなどいられようか。騎士が今ここにあるのは全てこの教皇あってこそ。騎士に信仰と剣を与えたのも教皇、命と心を与えたのも教皇なのだから。
「ヨハンナ」
「なに?」
 騎士が名を呼ぶと、教皇は微笑みで返す。
「貴女は殺されますよ」
「そうね」
 表情も声音も変えることなく、教皇はこともなげに言う。
「貴女は私を創った罪で殺されます。私はこの先で貴女を殺すよう命じられました」
 教皇は何も言わず、ただ己が手で創ったオートマタに微笑みかける。
 命を創ることは神ならぬ身には許されていない。騎士の存在は誰よりも信仰に厚い教皇が生涯でただ一度神に背いた明確な証。忠実な神のしもべのたった一つの傷。
 騎士は悲しげな赤い瞳で教皇を見る。
「貴女を殺したあとで私は壊されます」
「そうね」
 教皇は微笑んだまま頷く。
 壊される前に自分で死のうか、と騎士は思う。だが自殺は許されていない。神はどうか知らないが、教皇はきっと許してくれない。
 だが、壊されるとわかっていてそれに従うのは自殺とどう違うのだろう、と騎士は思う。
 騎士がその気になれば教皇を連れて逃げることも出来る。追っ手を退けるに足る力も騎士には与えられている。教皇が天寿を全うするまで二人で逃げ切ることも出来るだろう。
 石畳の上を、馬車は揺れることなく静かに進む。
 教皇が目を細め、面白そうに、楽しげに騎士に言う。
「あなたは私をどうしてくれるの?」
 教皇に試されている事を悟った騎士は困惑する。
 どう答えることが最も教皇の心にかなうことなのかを考える。
 馬車はゆっくりと、止まることなく進む。
 答えを出すまでの時間は残りわずか。
 若く美しい教皇は、己の姿に生き写しの騎士に向かって嫣然と微笑む。

 そんな夢を見た。

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